2013年6月の読書

小説9冊、エッセイ1冊、まんが1冊。

小説はうち7冊が山本文緒。その世界にどっぷり浸らせてもらった。この人の小説、特に長編を読んでいると、海に沈んでいく感覚に陥る。息ができなくて苦しくて、次第に意識が朦朧としていくの。主人公の女(の恋愛)が正気の沙汰とは思えないのだけど、どこか自分にも思い当たる節があるからか、惹きこまれていってしまって、ハッとして海の波間から顔を出して息をする。そんな感覚だった。
長編より短編は明るめで、私は長編の方が好き。基本的に暗くて重いのが好きということもあるけど、ただ女というものを描いているだけでなくて、小説として構成がすごくおもしろいから。それと、タイトルが秀逸なんだよね。特に「あなたには帰る家がある」はすごく良いタイトルだと思う。

良いタイトルといえば、初めて読んだ作家さんだったけど「君は永遠にそいつらより若い」もすごく素敵なタイトルだった。心が痛むニュースを見たときに、このタイトルをきっと思い出すんだと思う。この人の本は他も読んでみたい。

しかし何はともあれ、まず7月は海からでようと思う。

2013年6月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:2804ページ
ナイス数:68ナイス

■ブラック・ティー (角川文庫)
軽い罪をテーマにした10話の短編集。どの話も途中まではどこにでも誰にでもありえる普通の日常。でも実は…と告白するように途中でそれぞれの罪が浮かび上がってくると、それまで普通の日常と思っていたことが奇妙で恐ろしいものに思えてくるという巧い描き方だった。特に「夏風邪」と「ニワトリ」が好き。自分にも思い当たる節があって胸が痛んだ。「罪という名の地雷は、いたる所に埋まっている。今まで踏みつけなかったのは、ただ運が良かっただけだ。」そのとおりだと思う。
読了日:6月2日 著者:山本 文緒

プラナリア (文春文庫)
少しクセのある女性と無職にまつわる5話の短編集。人の思い込みって恐い。自分が思う自分、他人が思う自分、自分が思う他人。作り上げた自分と他人の像の狭間で揺れ動く。私はこんなにかわいそうなのに、彼も親も私が甘えていると思っている。それでいてかわいそう扱いされると、私はかわいそうじゃないと言い張る。勝手でひねくれているけど、気持ちが分かってしまう自分が嫌になったり。描かれていない結末の先に続く彼女たちの暮らしは、自分と他人の見方を変えると予想と違う展開になるのかも。「プラナリア」と「ネイキッド」が好き。
読了日:6月3日 著者:山本 文緒

■あなたには帰る家がある (集英社文庫)
対照的な2組の夫婦の形と不倫の話。すごくリアルだった。特に不倫をする男の狡さと女の強かさ。それぞれの心理描写と、次第に登場人物の素性が明らかになっていく展開はどれも素晴らしいのだけど、何よりタイトルが秀逸。自分のことしか考えていない人たちが次々と自分の欲望を相手にぶつけてゆく。夫婦って思いやりをなくしたらこんなにも簡単に壊れてしまうものなのかも。結婚前と比べて結婚後に相手に変化があったら、それは自分にも要因があるのだと思う。結婚後に読んだら今とは違う感想を抱くかも。
読了日:6月7日 著者:山本 文緒

■絶対泣かない (角川文庫)
働く女性を15の職業別に描いた短編集。どの女性も悩んだり迷ったりしながらも、前向きな姿勢を崩さない。その姿に励まされ、優しい気持ちになれる。特に好きなのは、仕事を通して失恋から立ち直る販売員の「今年はじめての半袖」と、男社会で働くタイムキーパーの「気持ちを計る」。だけど、負けず劣らずあとがきがとてもいい。「そのつまらない仕事でお給料をもらって自分を食べさせているのなら、一見華やかそうでも、誰かから扶養されている人よりは何倍も自由であることを、時々は思い出してください」仕事に行き詰まったらまた読み返したい。
読了日:6月10日 著者:山本 文緒

■さいはての彼女 (角川文庫)
女性の旅に纏わる4話の短編集。それぞれの主人公がみんな仕事に生きてきて気づけばひとりで歳を重ねていたバリバリのキャリアウーマンで、その感覚に少しついていけなかったけど、「何もないところへ行きたい」という気持ちはすごくよく分かる。私が大好きな冬の北海道が舞台の「冬空のクレーン」もよかったけど、気に入ったのは「旅をあきらめた友と…」。ひとりになって初めて一緒にいてくれる人のありがたさが分かる。その存在を大切にしたいと思った。「人生を、もっと足掻こう。」前向きな気持ちがわいてくる素敵な言葉。
読了日:6月12日 著者:原田 マハ

■君は永遠にそいつらより若い
どこに出るか分からない暗くて長いトンネルを歩いているような、暗い海の中を沈んでいくような、そんな感覚で読んだ。女の童貞な女子大生ホリガイさんの内面が痛くて切実でひどくエグられているから。でも、最後にはトンネルを抜けられるし、浮かんでこれる。その先に何が待っているかはまだ分からないけど。孤独で生き辛くて、どんなになかったことにしたいと思ってもなかったことにはできない人生だけど、生きていたら希望はあるはずだと、ホリガイさんはきっと分かっている。強い人だと思う。最後に意味が分かるこのタイトル、すごくいい。
読了日:6月13日 著者:津村 記久子

アラサーちゃん (ダ・ヴィンチブックス)
あるある、分かるなーって頷きながらクスッと笑いながら読んだ。もちろん首を傾げるネタもあるけど、読み終わったらちょっとスッキリした気持ちになれる。そしてアラサーちゃんがすごくかわいい。アラサーちゃんも、モテてるゆるふわちゃんも好きな人への思いが実ってないところがいいんだと思う。
読了日:6月15日 著者:峰 なゆか

シュガーレス・ラヴ (集英社文庫)
突発性難聴睡眠障害、生理痛、アルコール依存、肥満など、ストレスからくる病を抱えた女性に関する10編。女性というものを描くことや、それを徐々に明らかにする手法がとても巧いと思う。共感する部分が多すぎて好きな話を特定できない。結末が明るいものも暗いものもあるのが綺麗事ではない気がしていいと思った。知らず知らずのうちにフタをして、我慢して我慢して我慢して、ひたすら我慢してついに限界に達してしまう。ストレスを感じるのも人との関係からだし、そこから解放されるきっかけや幸せを感じるのも人との関係からなんだと思う。
読了日:6月16日 著者:山本 文緒

■眠れるラプンツェル (角川文庫)
この人の長編は読む手を止められない。波にのまれて溺れていく感じ。結婚6年目で子どもがいない専業主婦の汐美が、お隣の男子中学生ルフィオに恋をしてしまう。15歳年下を好きになるって理解できないと、汐美と同い年の私は思うのだけど、汐美の気持ちの経過には分かる部分があった。最後は、ルフィオの真剣な言葉、汐美のルフィオを想う気持ちが切なすぎて悲しかったけど、とてもいい終わり方だと思った。ラプンツェルと違って王子様の迎えではなくて、自分で目覚めて塔を降りた汐美は、どんな未来になっても自分の足で歩いていてほしいと思う。
読了日:6月16日 著者:山本 文緒

■3652―伊坂幸太郎エッセイ集
デビューからの10年間が詰まったエッセイ集。ニヤッとしながらクスッと笑いながらたまに胸が熱くなりながら10年の軌跡を堪能させてもらった。伊坂さんの日常、小説に対する思いを垣間見れて、伊坂さんが影響を受けたものを知れて、すごく楽しかったし、素朴で謙虚で誠実な人柄が窺えた。伊坂さんの小説が好きな私は伊坂さんの好きな小説や映画をきっと好きになるんじゃないかと思わされて、読みたい本や観たい映画が増えた。たまに出てくる奥さんも素敵で。奥さんの「いいんじゃない?」で今があるとも言えるんじゃないかな。
読了日:6月21日 著者:伊坂 幸太郎

落花流水 (集英社文庫)
手毬という女性の7歳から67歳に至るまでの生き様を10年毎に区切って描いていて、毎回語り手が変わるという演出の巧さに惹きつけられた。10年経つごとに手毬の生活はガラッと変化していて、そのめまぐるしさにやりきれない気持ちになった。手に入りそうで手に入らない、そのくらいがちょうどいいのかも。手毬や手毬の母のように、いつまでもどこまでも自分のほしいものに執着して、手に入れては次のものを求めていく生き方は疲れないかな。そんなことを思わされた話。
読了日:6月24日 著者:山本 文緒

読書メーター
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